准教授 美紗子(44)
一週間後、美紗子は大学の教壇に立っていた。
この時期、大学四年生の八割以上は就職先が内定している。なので授業は残りの単位を落さない程度に出席するだけでゼミの教室も空席が目立つ。
岩下透も大手の銀行に内定して美紗子の卒論ゼミを欠席する日が多くなっていた。あのテレビ局への推薦の件は岩下透が固辞して美紗子は積極的には進めなかった。マスコミの政治色の強い人間関係が彼の性分に合わないらしい。
その岩下透がゼミに出席していた。これまでは月曜日と木曜日の週二回は決まってゼミを欠席していた。欠席の理由を美紗子が訊くと車の免許を取るためだという。ゼミの日が免許取得の授業に当たると欠席するしか方法がないということだった。
岩下透が金銭的に困っている噂を美紗子は時々、耳にしていた。親からの仕送りが滞っていて、教習所の資金が足りなくなって授業を受けられないらしい。
それを耳にした美紗子の脳裏に女の企みが頭を擡げていた。彼に資金を援助して免許を取らせ、秋の大型連休のドライブ旅行を約束させることだった。
あの日、岩下透とのセックスは結局、彼が酔いつぶれたおかげで、あの一回きりで、逝かせてもらえなかった。そのリベンジを秋の旅行で成就させたかった。
その件もあってか、今日の美紗子の講義は密度が薄く、居眠りする学生も見受けられ彼女も講義を早めに終わらせた。が、講義の要約のレポートはしっかりと提出させた。
その提出された岩下透の要約レポートの下欄に美紗子は次のように記した。
『余計なお世話とは存じますが教習所の資金援助をさせてくださらないかしら。ご返事は今夜のラブコンタクトのユンゴまで。サムくん、お待ちしております』と。
*****
美紗子は講義を終えた後、帰宅途中のデパ地下で夕飯の惣菜を買って帰ったが、夕食を済ましてシャワーを浴びても気持ちが落ち着かなかった。
まだ夜も早いのにパソコンを起動して、出会い系サイトのラブコンタクトのマイページを開いたり、クローゼットの中を整理したり、抽斗に収納している下着を並べ替えたり、そわそわしていた。
もし、岩下透から援助を断られたら女の欲求をどのように鎮めるか、そんなことに思考を巡らせてはデスクの椅子に座ってパソコンの画面を見つめていた。
自宅に招いて抱かれたときの岩下透の言葉が蘇ってくる。
『男は女の快感のための道具にすぎない』
…そうかもしれない。ごめんなさい。と美紗子は脳裏で謝る。結婚を諦めた美紗子には全く当たっていた。
『でも例外があります。ある大学の美人准教授とセックスすると本当に気持ちがいいんです。セックスしているときの征服感もマンコも最高です」
…そうなら絶対に援助を断らないで。
『美紗子先生のオッパイ最高。マンコも最高』
…そうなら援助を断らないで。
『美紗子先生の声もオッパイもマンコも俺の物だ』
…そうよ。美紗子は岩下くんのものよ。だから絶対に断らないで、変態くん。
と、美紗子は脳裏で呟いてから、なぜ岩下透に魅かれるのか考えてみた。
彼の所有物が自身の女の器に合っているのもあるが、あの極めて段差のある精神構造だ。優秀な学業と明晰な頭脳なのに、性に関係することには遠慮しないダイレクトな言葉を女にぶつけてくる。まるで性行為に対して憎しみが込められているようにさえ思える。
彼の口から吐かれる淫語の数々には女として恥ずかしいはずなのに不思議と受け入れてしまう。鼓膜を淫語で叩かれるうちに女を淫靡な気分に陥れてしまうのだ。こんなに女を辱しめ、また気持ち良くさせる男は二度と目の前には現れないと美紗子は断言できた。
美紗子は物思いに更けるのをやめてキッチンに行き、冷蔵庫からレモン杯を取り出してグラスに注いでから、再びデスクの椅子に腰掛けた。そして出会い系サイトのラブコンタクトのマイページを開いた。000
サムこと岩下透からメールが一通届いていた。
美紗子は開いた。
サムからユングへ
『ご厚意は嬉しいのですが、そこまで滝川美紗子様に甘えたら男が廃ります。なんとかバイトを探して稼ぎますから、ご心配なく』
美紗子はデスクから離れてベランダへ出た。
大桟橋には二隻の豪華客船が舫われている。その船の明かりに美紗子は視線を預けて岩下透の本音を探った。
『滝川美紗子様に甘えたら』
あえて先生を省いて『滝川美紗子』という氏名を使用したのと、『様』 『甘えたら』は、裏を返せば甘えたいという意味ではないか。
美紗子はデスクに戻って返信した。
ユングからサムへ
『将来性豊かな貴方が教習所の資金稼ぎのためにバイトをして万一取り返しのつかない怪我でもしたら、ご両親も私も大変な後悔をするのよ。とにかく、私の好意を素直に受け入れなさい。いいわね』
美紗子は迷いのある返信には強い意思を示すことにした。
案の定、サムからの返信は早かった。
サムからユングヘ
『わかりました。美紗子先生のご厚意をお受けいたします』
*****
美紗子は翌日の夜も岩下透とメールを交換し、資金援助の確認をしてから彼の銀行口座に資金を振り込んだ。
その三日後のことだった。彼からお礼のメールがきた。その内容は美紗子を喜ばせた。岩下透が美紗子の企みにあっさりと落ちてきたからだ。
サムからユングヘ
『滝川美紗子様のご厚意、確かに受け取りました。ありがとうございます。車の免許が取れましたら、お礼にドライブにお誘いしてもよろしいですか。車はレンタカーですけど』
ユングからサムへ
『喜んでお伴もさせていただきます』
美紗子はそう返信してベランダへと出た。心が浮き浮きして顔の綻びが治まらなかった。
この時期、大学四年生の八割以上は就職先が内定している。なので授業は残りの単位を落さない程度に出席するだけでゼミの教室も空席が目立つ。
岩下透も大手の銀行に内定して美紗子の卒論ゼミを欠席する日が多くなっていた。あのテレビ局への推薦の件は岩下透が固辞して美紗子は積極的には進めなかった。マスコミの政治色の強い人間関係が彼の性分に合わないらしい。
その岩下透がゼミに出席していた。これまでは月曜日と木曜日の週二回は決まってゼミを欠席していた。欠席の理由を美紗子が訊くと車の免許を取るためだという。ゼミの日が免許取得の授業に当たると欠席するしか方法がないということだった。
岩下透が金銭的に困っている噂を美紗子は時々、耳にしていた。親からの仕送りが滞っていて、教習所の資金が足りなくなって授業を受けられないらしい。
それを耳にした美紗子の脳裏に女の企みが頭を擡げていた。彼に資金を援助して免許を取らせ、秋の大型連休のドライブ旅行を約束させることだった。
あの日、岩下透とのセックスは結局、彼が酔いつぶれたおかげで、あの一回きりで、逝かせてもらえなかった。そのリベンジを秋の旅行で成就させたかった。
その件もあってか、今日の美紗子の講義は密度が薄く、居眠りする学生も見受けられ彼女も講義を早めに終わらせた。が、講義の要約のレポートはしっかりと提出させた。
その提出された岩下透の要約レポートの下欄に美紗子は次のように記した。
『余計なお世話とは存じますが教習所の資金援助をさせてくださらないかしら。ご返事は今夜のラブコンタクトのユンゴまで。サムくん、お待ちしております』と。
*****
美紗子は講義を終えた後、帰宅途中のデパ地下で夕飯の惣菜を買って帰ったが、夕食を済ましてシャワーを浴びても気持ちが落ち着かなかった。
まだ夜も早いのにパソコンを起動して、出会い系サイトのラブコンタクトのマイページを開いたり、クローゼットの中を整理したり、抽斗に収納している下着を並べ替えたり、そわそわしていた。
もし、岩下透から援助を断られたら女の欲求をどのように鎮めるか、そんなことに思考を巡らせてはデスクの椅子に座ってパソコンの画面を見つめていた。
自宅に招いて抱かれたときの岩下透の言葉が蘇ってくる。
『男は女の快感のための道具にすぎない』
…そうかもしれない。ごめんなさい。と美紗子は脳裏で謝る。結婚を諦めた美紗子には全く当たっていた。
『でも例外があります。ある大学の美人准教授とセックスすると本当に気持ちがいいんです。セックスしているときの征服感もマンコも最高です」
…そうなら絶対に援助を断らないで。
『美紗子先生のオッパイ最高。マンコも最高』
…そうなら援助を断らないで。
『美紗子先生の声もオッパイもマンコも俺の物だ』
…そうよ。美紗子は岩下くんのものよ。だから絶対に断らないで、変態くん。
と、美紗子は脳裏で呟いてから、なぜ岩下透に魅かれるのか考えてみた。
彼の所有物が自身の女の器に合っているのもあるが、あの極めて段差のある精神構造だ。優秀な学業と明晰な頭脳なのに、性に関係することには遠慮しないダイレクトな言葉を女にぶつけてくる。まるで性行為に対して憎しみが込められているようにさえ思える。
彼の口から吐かれる淫語の数々には女として恥ずかしいはずなのに不思議と受け入れてしまう。鼓膜を淫語で叩かれるうちに女を淫靡な気分に陥れてしまうのだ。こんなに女を辱しめ、また気持ち良くさせる男は二度と目の前には現れないと美紗子は断言できた。
美紗子は物思いに更けるのをやめてキッチンに行き、冷蔵庫からレモン杯を取り出してグラスに注いでから、再びデスクの椅子に腰掛けた。そして出会い系サイトのラブコンタクトのマイページを開いた。000
サムこと岩下透からメールが一通届いていた。
美紗子は開いた。
サムからユングへ
『ご厚意は嬉しいのですが、そこまで滝川美紗子様に甘えたら男が廃ります。なんとかバイトを探して稼ぎますから、ご心配なく』
美紗子はデスクから離れてベランダへ出た。
大桟橋には二隻の豪華客船が舫われている。その船の明かりに美紗子は視線を預けて岩下透の本音を探った。
『滝川美紗子様に甘えたら』
あえて先生を省いて『滝川美紗子』という氏名を使用したのと、『様』 『甘えたら』は、裏を返せば甘えたいという意味ではないか。
美紗子はデスクに戻って返信した。
ユングからサムへ
『将来性豊かな貴方が教習所の資金稼ぎのためにバイトをして万一取り返しのつかない怪我でもしたら、ご両親も私も大変な後悔をするのよ。とにかく、私の好意を素直に受け入れなさい。いいわね』
美紗子は迷いのある返信には強い意思を示すことにした。
案の定、サムからの返信は早かった。
サムからユングヘ
『わかりました。美紗子先生のご厚意をお受けいたします』
*****
美紗子は翌日の夜も岩下透とメールを交換し、資金援助の確認をしてから彼の銀行口座に資金を振り込んだ。
その三日後のことだった。彼からお礼のメールがきた。その内容は美紗子を喜ばせた。岩下透が美紗子の企みにあっさりと落ちてきたからだ。
サムからユングヘ
『滝川美紗子様のご厚意、確かに受け取りました。ありがとうございます。車の免許が取れましたら、お礼にドライブにお誘いしてもよろしいですか。車はレンタカーですけど』
ユングからサムへ
『喜んでお伴もさせていただきます』
美紗子はそう返信してベランダへと出た。心が浮き浮きして顔の綻びが治まらなかった。
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