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物語とエロスが満載のブログです。
美肉捜査1(1)
 プロローグ

 墓地に夏の日が射している。
 丘陵地に造成されたからなのか、所々、伐り残された樹が墓石を見守るように陽射しを受けている。
 その一本の樹陰に背広の男たちが日照りを避けている。

 五分すぎか……。
 腕時計に目をやった男が区画の外れの駐車場に視線をやった。
 車の屋根から空気がゆらいで昇っている。

 その駐車場に一台の車が着くと男と女が降りてきた。
 ようやく幹部と花束を携えた女が到着したことで、男たちは弛めたネクタイを締めなおすと日陰から足を踏み出した。

 その出迎えた男たちに幹部は目で返し、上着のポケットからハンカチをだして額の汗を拭った。
 女はというと男たちにお辞儀をしながら墓石の前へと進み、花束を奉げると蝋燭に火をつけ、一束の線香の帯を解いた。それで後ろへ退くつもりでいたが幹部から先にと促がされ、線香をあげて数歩下がり腰を落して手を合わせた。

 男たちの職業がなんであろうとも、女のそういった後ろ姿は視線を集めるものだ。とくに下半身の丸みはなおさらのこと。
 あるべき、あの線がない……
 あの線が無いと男は興味をそそられるもので、視線は執拗なまでに探す。

 よく見ると臀部の中央から微かな線が腰へと切れ上がっている。
 それを見つけたことで男たちはにんまりとした。

 女はしばらく合掌してから腰を上げ後ろへと退いた。その後、幹部、男たちの順で線香をあげて合掌し、最後に全員が黙祷した。
 その男たちの頭を樹から飛びたった蝉が尿をたらしてかすめていった。

 黙祷が終わり、幹部が墓石を背にした。
「はやいものでもう一年もたってしまった。この事件については寝食を忘れて捜査に全力を費やしたつもりだが……」
 ここで幹部は遠くの墓石に視線をやってから、
「とにかく、一刻も早くホシをあげて、被害者のご冥福とご家族の悲しみを少しでもやわらげ、警察の威信を回復することだ」
 と訓示し、額の汗を拭った。

 事件は去年の夏、硝子製の模造陰茎を膣に挿入された女子大生の全裸死体が山林に乗り捨てられた盗難車から発見されたもので、捜査本部はこの一年間、県内はもとより県外まで捜査範囲を広げているが、暗礁に乗り上げたまま成果はあがっていない。

 黙祷の後、一行はそれぞれ所轄と県警本部に戻った。

 被害者の一周忌からもどった県警本部長付き秘書の松見圭子は私服に着替えると化粧室に行き、口紅を塗り直していく。紅がおちているのでもなく、色が気にくわないわけでもなく、口紅を口実に顔を見つめる時間をつくる女の習慣にすぎない。

 そうして口紅を塗り直したあとは、すみやかに席に戻るのに、このときの圭子はそれだけではなかった。スカートのスリットの位置を思いきってサイドから前にもってきた。そして鏡に映っている脚をしばらく見つめながら、あらためて決心を変えるつもりはないことを自分に言い聞かせた。

化粧室からもどった圭子は、パソコンで午後の来客者のリストを調べた。
 空欄になっている。
 一周忌の報告も捜査本部長がすましている。
 その彼以外、この秘書室を通り抜け県警本部長室のドアをノックするのは警備部長だけで、その部長は警察庁に出かけているはず。

 圭子は念のため部長の在席標示を確かめてから、コーヒーを淹れて、本部長室のドアをノックした。
 入れという本部長の嗄れた声。
 圭子はドアを開けた。

「松見くんか」
と、本部長は腰を上げ、応接用のソファーに座り直してから圭子を招いた。

 圭子はコーヒーを本部長の前に置くと、盆をテーブルの隅にどけ、ソファーに腰を下ろして
「ご相談があります」
と、顔から膝まで本部長に向けた。

 その相談の内容を察しがついている本部長はなにくわぬ顔をして、
「相談か……わかったぞ。好きな男ができたのだろう。仲人のことか?」と、いつものようにとぼけた。

「違います!」
「違う?……はて、なんだろう」
「わたしにも捜査をさせてください」
「またか。なんどもいうようだが、それは無理というものだ。松見くんは警察官ではないだろう」
「わたしは警察官になりたかったんです。でも、父が保証人になってくれないから……」

 この問答には本部長も辟易している。これがただの職員なら追い返してやるところだ。

「松見くんの無念な気持ちはよくわかるが、親の気持ちも理解してあげないとな」
「だいたい、親の保証印がないと警察官になれないのがおかしいです」
「警察官は公僕のなかの公僕だ。親がしっかりと保証しないとなれないのは当たり前のことだ」
と、本部長はいったがそんなことはない。保証人を親のみに限定していない公安委員会もある。

「なあ、松見くん。仮にだよ、松見くんのような一人娘がいたら、このわたしだってそうするかもしれん。親とはそういうものだ。最近は女警の殉職だってあるんだ。ひとそれぞれ適材適所というものがあるんだよ」
「適材適所とおっしゃいましたが、このわたしが女警にむかないというんですか」
「むかないな」
「どこがです!」
「まず第一に体力がない。第二に感情的だ。第三に女警にしておくにはもったいないくらい美人ということだ」
と本部長はにこりとし、こんな美人の一人娘を警察官にさせる父親がどこにいるか!と脳裏で吐いた。

「いいじゃないか、ここでおとなしくしておれば。そのうち、いい縁談があるから」

 圭子はそんなことは聞きたくないとばかり顔を背けた。

 この県議会議長の一人娘は、憤慨するとこうして顔を背ける。顔を背けると合わせた膝が緩み、その奥さえ垣間見せる。本部長はそれが楽しみであり、いつもこうしてソファーに座らせてから話を聞いてやる。

 不謹慎といわれても見えてしまうものは見てしまうというのが男の目というものだ。ただし、そこには理性が静かな息をしていなければならない。どのような刺激的な光景であっても静かに息を吐き、吸いながら眺める。その限りにおいて見る側になんの罪もなければ非難されることもない。

 本部長は、今日もそのつもりでコーヒーを口に持っていき窺った。顔の背けはいつもよりきつい。そのせいかじつに膝が緩んでいる。さらにはスリットが脚の合わせに副っていて、腹がたつほどに見えすぎる。これが我が娘だったら膝を叩いてやるところだが…。

 本部長はコーヒーを啜りつつ、県警随一の別嬪の秘部の装いを眺めてから視線を上げてみた。それで顔が戻っていれば、ほんの束の間の愉しみで了らせるつもりであった。しかし、今日の別嬪は顔を背けたまま窓の遠くに視線を預けたままでいる。こんな長い顔の背けは、かってあっただろうか? 

 ……ない。

 ならば何かの罠を察知しなければならないのに、すでに本部長の息は乱れ始めていた。息が乱れると本能が目覚めてくる。今日は、なんという悩ましいのを穿いているんだ。ショーツの柄まで見えるじゃないか!

 本部長の腕がまるで吸い寄せられるように浮いた。女の膝に触れてしまった時、脚は一瞬閉じてから招くように緩んだ。彼の手は拒まれることなく奥へと滑りこんでいった。







  
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