准教授 美紗子(46)
美紗子の声で店員が竦んで棒立ちになった。すぐに店の奥から店長らしき男が出て来た。そして店員を奥へとひっこめた。
「申し訳ございません。失礼しました。手前どものミスでございます。すぐに修正します。それで、お客様いかがでしょう。広告の品物の色違いで、前がファスナー仕立でしたら在庫がございますが」
「そう…何色なの」
「ブルーです」
「ニットですよね」
「もちろん、最上級のニットです」
「お値段は」
「値引きさせていただいて、五万五千円で」
「五万円にして。いますぐ見せて頂戴」
「は、はい」
店長は美紗子の容姿と強気の交渉に只者ではないと思ったのか、慌てて返事をした。
美紗子は試着室で着てみた。ネットで一目惚れしただけのこともあり、まるで我が身に合わせて編んだように身体にフィットしている。裏地も付けられて肌触りも良い。
ファスナーは目立たないようになっていて、着たり脱いだりは首下のリボンを下げるようになっている。
気になるのは裾丈が予想以上に短く、車の座席に座れば危険水域を越えることだ。こんなミニのボディコンをデザインしたルイ・ビ トンの思惑が分かり過ぎる。
…岩下くん、私も勇気を出して着るから、たくさん抱いてね。
美紗子はそう呟くと試着室を出て店長に品物をカードと一緒に渡した。店長は踵を返して美紗子の傍からレジの方へと消えた。
その店長が品物を包装しながら、さっきの女店員と話している。
「あの人、滝川美紗子でしょう」
「見たことがある顔だと思った。実物も美人だな。このミニのボティコンを着た姿をぜひ見たいものだ」
「いやらしい店長」
「そうかな。男なら誰でも思うだろうが」
「有名人は、あれだから嫌いよ。美人を鼻にかけて」
「そういうな。お前も説明が足りないんだよ」
店長は包装した品物を豪華な紙袋に入れて美紗子の傍に行くと、ありがとうごさいますと丁重な物腰で手渡してから、店から出ていく彼女の後姿を男の粘っこい視線で見送った。
*****
美紗子は店を出たその足でタクシーを拾い日本橋で降りて、ライオンの銅像がある百貨店のランジェリー売場に寄った。
あの股割れのショーツを買わされた口の上手な店員に、ボディコンに合うテーバックを選んでもらおうと思っていた。
あの店員の雰囲気が美紗子の好みに合っているのもあるが、岩下透に股割れのショーツから見える女の部分を褒めてもらって気分を良くしているのが最たる理由だった。
その美紗子の背後から女の声がした。
「いらっしゃいませ」
美紗子は振り向いて、
「あら、こんにちは」
と、笑顔で返した。
「先日の股割れのお品、ありがとうございます」
店員はそう言って深いお辞儀をしてから微笑んだ。
「今日は貴女に選んでほしいものがあるの」
美紗子がそう言うと、店員が傍に寄ってきた。
美紗子はボディコンの紙袋から品物を出して店員に見せ、
「明日の連休から車で夫と旅行に行くのだけど、このボティコンに似合うショーツとブラ、選んでくれないかしら。色はニットのブルーなの」
と、店員を親しみのある視線で見つめる。
「よろこんで、選ばせてもらいます」
店員はそう美紗子に返して、ボティコンのニットを指で触って確かめて、
「これブランド品ですね。編み方がしっかりしているわ。ミニですか」
と、訊いてきた。
「いい年をしてミニなの」
美紗子は応える。
「…でも、お客様は御身脚が長くてお綺麗ですから。お似合いですよ」
店員はお世辞で美紗子を撫でてから、
「少々、お時間をくださいませ」
と、売場の裏側に姿を消した。
店員が裏から現れたとき美紗子は高い買い物になると覚悟した。店員がマネキンを抱いて品物を持ってきたのだ。そして、
「お車ですから、裾がずりあがっても他人の目は気にすることはありませんね。ですからご主人にチラチラと見せて刺激してあげましょうよ」
と、店員は一枚のショーツをマネキンに穿かせていく。
穿かせるとショーツの生地を指で広げて、
「シルクとナイロンの混合でマチ無しですから、このように光沢と伸縮性でピッチリして女の形が浮きあがります。男性の目には股割れに勝るとも劣らないほどの刺激性があります」
と、店員は恥ずかしいことを美紗子に事務的に話してくる。
さすがの美紗子も、ため息をついて、
「…お色は」と訊く。
「白、ベージュ、ピンクとあります」
店員は応えてから、こんどはブラをマネキンに着けていく。
「失礼ですが、お客様のサイズはお幾つで…」
店員は美紗子の胸に視線をさらりと流して、訊いてくる。
「Dです」
美紗子は自信を持って応える。
「まあ、羨ましい!」
と、店員はお世辞を忘れずに口にしてから、
「この際、ショーツのようにブラでもご主人に見せつけましょうよ。ハーフカップのブラです。カップで支え上げて女の優しい盛り上がりを見せてあげましょうよ」
店員はそう言って、ブラを付けていく。
美紗子も店員の雰囲気に慣れてきたのか質問をする。
「…カップからでません?」
「ご心配なく、平常のときは隠れますから。でも胸を触られるとお顔を現しますが、それぐらいは許されますでしょう」
「…そうね」
美紗子は店員の言葉使いに感心する。
結局、美紗子は終始、店員のペースに巻き込まれて、ハーフのブラとマチ無しのショーツを色違いのセットで三組も買うことになった。
「貴方には負けましたわ」
と、美紗子は店員にカードを渡した。
「申し訳ございません。失礼しました。手前どものミスでございます。すぐに修正します。それで、お客様いかがでしょう。広告の品物の色違いで、前がファスナー仕立でしたら在庫がございますが」
「そう…何色なの」
「ブルーです」
「ニットですよね」
「もちろん、最上級のニットです」
「お値段は」
「値引きさせていただいて、五万五千円で」
「五万円にして。いますぐ見せて頂戴」
「は、はい」
店長は美紗子の容姿と強気の交渉に只者ではないと思ったのか、慌てて返事をした。
美紗子は試着室で着てみた。ネットで一目惚れしただけのこともあり、まるで我が身に合わせて編んだように身体にフィットしている。裏地も付けられて肌触りも良い。
ファスナーは目立たないようになっていて、着たり脱いだりは首下のリボンを下げるようになっている。
気になるのは裾丈が予想以上に短く、車の座席に座れば危険水域を越えることだ。こんなミニのボディコンをデザインしたルイ・ビ トンの思惑が分かり過ぎる。
…岩下くん、私も勇気を出して着るから、たくさん抱いてね。
美紗子はそう呟くと試着室を出て店長に品物をカードと一緒に渡した。店長は踵を返して美紗子の傍からレジの方へと消えた。
その店長が品物を包装しながら、さっきの女店員と話している。
「あの人、滝川美紗子でしょう」
「見たことがある顔だと思った。実物も美人だな。このミニのボティコンを着た姿をぜひ見たいものだ」
「いやらしい店長」
「そうかな。男なら誰でも思うだろうが」
「有名人は、あれだから嫌いよ。美人を鼻にかけて」
「そういうな。お前も説明が足りないんだよ」
店長は包装した品物を豪華な紙袋に入れて美紗子の傍に行くと、ありがとうごさいますと丁重な物腰で手渡してから、店から出ていく彼女の後姿を男の粘っこい視線で見送った。
*****
美紗子は店を出たその足でタクシーを拾い日本橋で降りて、ライオンの銅像がある百貨店のランジェリー売場に寄った。
あの股割れのショーツを買わされた口の上手な店員に、ボディコンに合うテーバックを選んでもらおうと思っていた。
あの店員の雰囲気が美紗子の好みに合っているのもあるが、岩下透に股割れのショーツから見える女の部分を褒めてもらって気分を良くしているのが最たる理由だった。
その美紗子の背後から女の声がした。
「いらっしゃいませ」
美紗子は振り向いて、
「あら、こんにちは」
と、笑顔で返した。
「先日の股割れのお品、ありがとうございます」
店員はそう言って深いお辞儀をしてから微笑んだ。
「今日は貴女に選んでほしいものがあるの」
美紗子がそう言うと、店員が傍に寄ってきた。
美紗子はボディコンの紙袋から品物を出して店員に見せ、
「明日の連休から車で夫と旅行に行くのだけど、このボティコンに似合うショーツとブラ、選んでくれないかしら。色はニットのブルーなの」
と、店員を親しみのある視線で見つめる。
「よろこんで、選ばせてもらいます」
店員はそう美紗子に返して、ボティコンのニットを指で触って確かめて、
「これブランド品ですね。編み方がしっかりしているわ。ミニですか」
と、訊いてきた。
「いい年をしてミニなの」
美紗子は応える。
「…でも、お客様は御身脚が長くてお綺麗ですから。お似合いですよ」
店員はお世辞で美紗子を撫でてから、
「少々、お時間をくださいませ」
と、売場の裏側に姿を消した。
店員が裏から現れたとき美紗子は高い買い物になると覚悟した。店員がマネキンを抱いて品物を持ってきたのだ。そして、
「お車ですから、裾がずりあがっても他人の目は気にすることはありませんね。ですからご主人にチラチラと見せて刺激してあげましょうよ」
と、店員は一枚のショーツをマネキンに穿かせていく。
穿かせるとショーツの生地を指で広げて、
「シルクとナイロンの混合でマチ無しですから、このように光沢と伸縮性でピッチリして女の形が浮きあがります。男性の目には股割れに勝るとも劣らないほどの刺激性があります」
と、店員は恥ずかしいことを美紗子に事務的に話してくる。
さすがの美紗子も、ため息をついて、
「…お色は」と訊く。
「白、ベージュ、ピンクとあります」
店員は応えてから、こんどはブラをマネキンに着けていく。
「失礼ですが、お客様のサイズはお幾つで…」
店員は美紗子の胸に視線をさらりと流して、訊いてくる。
「Dです」
美紗子は自信を持って応える。
「まあ、羨ましい!」
と、店員はお世辞を忘れずに口にしてから、
「この際、ショーツのようにブラでもご主人に見せつけましょうよ。ハーフカップのブラです。カップで支え上げて女の優しい盛り上がりを見せてあげましょうよ」
店員はそう言って、ブラを付けていく。
美紗子も店員の雰囲気に慣れてきたのか質問をする。
「…カップからでません?」
「ご心配なく、平常のときは隠れますから。でも胸を触られるとお顔を現しますが、それぐらいは許されますでしょう」
「…そうね」
美紗子は店員の言葉使いに感心する。
結局、美紗子は終始、店員のペースに巻き込まれて、ハーフのブラとマチ無しのショーツを色違いのセットで三組も買うことになった。
「貴方には負けましたわ」
と、美紗子は店員にカードを渡した。
コメント : 0 ]
| ホーム |