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DATE: 2018/07/02(月)   CATEGORY: 秘書 珠代(01-20)
秘書 珠代(1)
 市営の墓地に春の日射しが注いでいる。その墓地の区画に子供と手を繋いで墓石を見つめている女がいる。年齢は三十代の後半だろうか、服装や物腰に若い女にはない落ち着いた雰囲気がある。

 女が見つめている墓石には仏名と夫の名が刻まれている。夫が亡くなったのは一年ほど前のことで、深夜、帰宅して居間でくつろいでいるときに突然、倒れた。くも膜下出血で、今でいう過労死だった。

 国家公務員のキャリアで国会が始まると省内での寝泊りが続き、例え帰宅しても時刻は深夜を過ぎていた。そんなときの夫の突然の死だった。
 
 そのとき珠代は専業主婦になっていたので、夫を亡くした悲しさよりも、娘との明日からの生活の方を心配した。夫の勤続年数もまだ短く、退職金と慰労金を足しても生活の余裕はなかった。

 それでも、今日まで生活ができたのは家賃の安い公務員住宅に住んでいたからで、その住居も来月には出て行かなければならない。そんなぎりぎりの生活の中で、新聞の広告を見て応募した中堅の建設会社の秘書に採用が決まったときどれほど驚喜したことか。

 珠代は夫の墓石を前にして手を合わせると、
「社長さんの秘書に採用されたの。お給与がとてもいいのよ。あなたも応援してね」
と、ご報告した。

 すると空耳なのか、春の空から夫の声が聴こえてきた。
「おまえは美人だからな。社長に体を奪われないように気をつけろよ」と。

 珠代は空を見上げて微笑し、
「そんなこと心配しないで大丈夫よ」
と、返した。

 珠代はそうして亡き夫に就職の報告をしてから、一人娘の手を握って待たせているタクシーへと戻った。

 タクシーは珠代を乗せると墓地のある丘を下ってからJRの鉄道沿いの道を三十分も走り、県庁が所在している街に着いた。珠代は料金を払ってタクシー降りると娘の手を握って駅ビルの百貨店に入った。

 一階のエスカレーターに乗り、二階の婦人服売場へ行く。売場にはお客は少なく、店員がいち早く顔見知りの珠代を見つけて傍に来ると、お辞儀をして注文票を受け取る。そして売場の納品庫に姿を消した。

 珠代はその間、売場を見て回るが、すぐに店員が戻ってきて誂えたスカートスーツを受け取って試着室の中に入った。その試着室で珠代がスカートを合わせているとき、外では店員が娘の肩に手を置いて売場主任と話をしている。

「あのお客様ですか」
「そうです。お綺麗な方ですよね」

「女優かな…」
「いまどきの女優さんは堅っ苦しいスーツなんか着ないでしょう」

 男の売場主任がスーツを誂えに来たときの珠代を思い出して店員に尋ね、その店員が娘の耳に聴こえないように主任の耳にひそひそと応えている。
 
 そんな外のことは知らない珠代が試着室から出てきた。裾を直したタイトスカートを穿いて…。

 珠代が穿いているのは二枚のスカートの内、膝上十八センチの方で、しなやかな柳腰に美脚がスカートの裾から眩しいほどに露出している。

「短すぎないかしら…」
 珠代は店員が用意した姿見に体を映しながらスカートの裾に触れる。

 そこに店員がさっと近寄り、
「そんなことないです。お客さんはおみ脚が綺麗ですから、よくお似合いですよ」
と、褒めそやす。

 そして主任もその店員に加勢する。
「良くお似合いですよ。婦人服のモデルさんになってほしいくらいです」と。

 珠代も二人にお世辞を言われて気分は悪くないが、通勤には膝上十センチの方が無難だと思った。その後、もう一枚のスカートも試着して売場を出、五階の子供服売場で娘の洋服を買ってから帰宅した。


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