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准教授 美紗子(22)
 那須高原での夏季合宿ゼミを終えた後、美紗子は横浜のベイエリアの自宅マンションで残りの夏休みを過ごした。

 横浜港に臨んだ高層マンションからの眺望は美紗子を退屈させることはなかったが胸の中は静まることがなかった。まるで港内の漣のように一時は凪いでも、どこからとなく現れる船や吹く風によって波立ってくる。

 美紗子の胸の騒めきも同様で、デレビ局の山添との付き合いにようやく慣れたのに、こんどは教え子の学生だった。優秀で自尊心が強いから思春期の恋慕を歪んだ形で訴えてくる。

 その恋慕を美紗子は受け流すつもりでいたが、下着を拾われたことでその軌道を外してしまった。一旦、外した軌道をそのままにしておくと、いずれ泥沼にはまって准教授の地位まで失いかねない。
 
 美紗子の目標は受け持ったゼミの学生を全員、卒業、就職させて准教授から教授への道を傷つけることなく進むことだった。そのためには奪われた下着を一刻も早く取り返して正常な軌道に戻さなければならなかった。

 美紗子はそこまで胸の中を整理してみたが、あの花火大会の出来事と、その彼に下着を返してもらうことを強く求めなかったのか。それだけが理屈を拒んで整理することができなかった。

 それにしてもデレビ局の山添との密会にはうんざりする。が、いまの身分を維持するためにはしかたがない付き合いなのかもしれない。山添との関係を維持していなければ卒業生の大手マスコミへの就職が大幅に落ちることが目に見えていた。

 その山添との昨夜の密会が思い出される。

 いつものシティーホテルに美紗子は山添がお気に入りの衣服を身に着けて臨んだ。タイトのスカートにテーバックのショーツ。そして白のブラウスに寄せて突き出しのクオーターカップブラ。

 そして暗闇の部屋でのスポットライトに照らされての開脚と愛撫、そして挿入して男の目的を遂げるのだが、昨夜はさらに過激な要求を強要された。

 テーバックの前が裂かれているのを穿かされての舌での愛撫と挿入だった。その挿入も一分と持たずに萎えてしまい、あげくフェラチオを強要されての挿入になった。

 それでなんとか射精させたから山添は喜んでいたが、こんなにも相手の男に恵まれないのはなぜなの。不美人でも不感症でもないのにと、美紗子は悲しさを超えて可笑しみさえ覚えた。

 美紗子はパソコンを持ってベランダに出た。籐椅子に腰を下ろし、パソコンのスイッチを入れた。

 トップ画面から出会い系サイトのラブコンタクトを読み込む。いまでも岩下透は大学以外での意思の疎通はこのサイトを指定してくる。この大学では教師と学生の直メールは原則禁止されているからだが…。だからといって出会い系サイトを指定してくるとは。

 …頭の良さと性欲は比例するのかもしれない。
 美紗子はふとそんなことを思った。

 それはともかくも美紗子はラブコンタクトのメールボックスを開いた。昨夜、整理して削除したのに7件も届いている。

 ハンドルネームのサムこと岩下透が一通に他が六名だった。

 美紗子は他の六名をゴミ箱に捨ててから、岩下透のメールを開いた。

 サム(岩下透)からユング(美紗子)
『こんばんは、美紗子先生。明日からの後期授業、期待しています。僕も宝物をブレザーの内ポケットに忍ばせて、先生の講義を拝聴させていただきます』

 ユング(美紗子)からサム(岩下透)
『返しなさい。岩下くんのへんたい。』

 美紗子は彼に書きたいことはたくさんあるが最小限にとどめた。それもなぜか軽蔑語にしては優しさが漂っている。

 山添のふにゃチンにうんざりしているいま、あの暗闇で思い知らせてきた彼の巨大な硬さが美紗子の怒りを和らげていた。

 美紗子は「岩下くんの変態、へんたい」と呟きながら出会い系サイトを閉じると部屋に戻り、軽音楽を流しながら衣服を脱ぎ、ついには全裸になった。

 女の一人身の気楽さは誰にも気兼ねすることなく部屋の中で裸になれることだった。このときの淫靡な感覚は女の秘めた安らぎにもなっている。

 特に深夜になるとカーテンを閉めていない窓の遠くに聳える高層マンションから望遠鏡で見ている男がいるかもしれないというスリルを経験してしまうと癖になってしまう。

 美紗子はこの日の夜、これまで躊躇っていた指を女の窄みに少しだけ挿入した。そして浅く抜き挿してみる。

「ぁ…」

 声だけは条件反射で漏れてくるが、男の指とは感覚が異なっていて、気持ち良さの微塵も無かった。

「…えっち」
と、美紗子は呟いてからシャワールームへと行った。

 …明日から後期の授業が始まる。

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