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DATE: 2017/09/29(金)   CATEGORY: 秘書 萌美(61-80)
秘書 萌美(62)
 四、戦士の戦い

 その週の金曜日に京葉電鉄の幹部とのコンペが決まった。倫子が直接、社長の五島慶太に要件を記したメールを送って了解の返事を頂いたのだ。

 慶太とはゴルフのコースを何回もご一緒している。そのたびに宿泊ゴルフや温泉旅行を誘われていた。倫子はこの絶好の機会にコンペの賞品を単価表と温泉旅行を条件にしてはどうかと、伺いのメールを送ってみたというわけだ。

 慶太からの返事はすぐに来て、その日にコンペの会場まで決まった。京葉電鉄不動産が造成している『望洋の郷』に隣接した直営のゴルフ場だった。

 その当日の朝早く、二人の秘書は会社のある最寄りの駅で待ち合わせてタクシーでコンペの会場へと向かった。遅刻は厳禁で
二人は道路の渋滞に気を揉んだが、運転手の機転で近道をしてくれたのが幸いして、ぎりぎりの時間にクラブハウスに着いた。

 倫子たちがフロントに行くと輝彦からの伝言のメモと女性のゴルフウェア二着をクラブハウスのスタッフから渡された。倫子はそのメモを開いた。

『お望みの工事単価表は門外不出でありますが、特別に一冊、持参してきました。このことは他の業者へは何卒、口外または閲覧無きことを宜しくお願いします。その見返りとしては恐縮ですが、こちらが用意した女性用のウエアーを身に着けて頂きたく存じます』
                          京葉電鉄不動産部、開発部長 五島輝彦


「ウエアーまで用意しているなんて…」
 倫子はビニールで包装されたウエアー二着の内一着を萌美に渡すと、ゴルフバッグをキャリーに乗せて、女性の着替え室へと行く。

「なんか怪しいわ…」
 倫子と一緒にキャリーを押していく萌美が呟く。あの輝彦のことだった。ウエアーに嫌らしい細工が施されているのではないかと心配する。

 着替え室に行き、二人はさっそく、ブレゼントとされたゴルフウェア―に着替えていく。ブラウスを脱いでポロシャツを着てみる。これは問題なし。胸の辺りも故意の穴あきは無く、ふつうのシャツだった。

 次はスカート。二人はタイトスカートを脱いでウエアーのスカートを広げてみる。ブランドのバーリーゲイツのミニの台形巻きスカートだった。裾を止める三つのボタンが全て省かれている。

「嫌らしい! スイングのとき、丸見えになるじゃない」
 思わず声を上げる萌美。

 その隣で倫子がスカートを広げたときに床に落ちたメモを拾った。短文が記されている。丁寧な楷書で次のように書かれていた。

『これがハンディーです。断っておきますがタイツとかパンストは厳禁ですよ。そちらには学生時代のゴルフチャンピオンの秘書さんがいるのですから。では、コースでお待ちしております』

「なるほどね…。しかたがないわ」
 勝ちの勝負は簡単に手に入らないか。倫子はそう自分を納得させると、タイトスカートとパンストを脱いで生脚になるとボタンの無いミニの巻きスカートを穿いていく。そして最後に踝までのストッキングを穿いてゴルフシューズを履いた。

 それを見ていた萌美もしかたなく倫子と同様にスカートを脱いで、ミニの巻きスカートを穿いていく。ズボンで戦うつもりで、いつものデリケートなショーツを穿いてきたのが裏目に出てしまった。

 これではスイングやコースを読むときには女の形まで男の目に晒してしまうことになる。それを耐え忍んで勝ち抜いていくのは並大抵のことではない。萌美は深いため息を何度もついて上下のウエアーに着替えると、倫子とロッカーを後にした。

                 *****

 輝彦たちは、すでに一番ホールで意気揚々と待っていた。

 萌美が初めて会う輝彦の父親、つまり京葉電鉄社長の五島慶太は五十代後半の、いかにも女好きの精力的な風貌をしている。

 その慶太が倫子に手を伸ばしてくる。倫子はその彼の手を握って慇懃なご挨拶をした後、
「こちらが秘書の新海です」
と、萌美を紹介する。

 萌美は一歩、彼の前へと進み出て、微笑を顔に溢れさせて、
「秘書の新海です。よろしく」
と、慶太にご挨拶をして、お辞儀をする。

 その秘書たちを見つめていた輝彦が、さっそく萌美の傍に来て、腰に腕を回してくる。
「お二人とも悩ましい限りですね。これではこちらもショットが乱れますよ」
と、萌美のボタンの無い巻きスカートを見下ろしてくる。

「あら、この程度で心が乱れるようなお人だったかしら」
と、萌美は美しく微笑んで、気の強いところを見せる。

 その二人の仲の良いところを見せつけられた慶太も、倫子の腰に腕を回して引き寄せる。倫子もコンペといえども、接待ゴルフに変わりはなく、彼の腕の中に身を寄せる。

 それを見つめながら輝彦は、
「今日はキャディーを付けないセルフなので、お互いゴルフ以外にも楽しみましょう」
と、さっそくスケベ根性を露わにする。

 倫子もこちらの立場を明確にするために、
「単価表のこともお忘れなく」
と、釘を刺しておく。

 そうして小野田ハウスの秘書と京葉電鉄の幹部とのゴルフコンペは始まった。その競技方法は午前と午後を合わせた全18ホールのスコアと決まった。これで秘書たちが勝てば単価表を得られるが、負ければ温泉旅行で男たちに好きなようにされる。


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