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Eros’Entertainment
物語とエロスが満載のブログです。
美肉捜査1(3)
 館内は薄暗く、絵画を展示した壁が迷路のように連なっている。
 その絵を鑑賞するお客があちらこちらに群がっている。
 ロビーのソファーでは関係者と思われる男たちが屯(たむろ)して観客を見ている。癖のように肩までの長髪を手で撫でつける男。観客を満足そうにじっと見つめるポニーテールの男。芸術家という職を隠れ蓑にしているせいか、男たちは退廃的な雰囲気を漂わせている。 

 その男たちが高杉に視線を送っている。

「お知り合いなの」
「エロス展にはよく顔を出していたからな。マニアの一人として」
「ほんとなの!」
「マル性の捜査だよ」

 展示されている絵はいずれも淫らな女の姿で、作品ひとつひとつがスポットライトで照らされている。薄地の下着で乳首や陰部を透けさせている絵。乳房を露出して男のアレを咥えたいと口を開けている絵。脚を折り畳まれてショーツから粘液を溢れさせている絵…。

「こういう絵、見たことないか?」
「……ないわ」
「官能小説の挿絵やカバーから発展したものらしい」

 淫らな女の痴態に気後れして足が進まない圭子は高杉に腰を抱き寄せられて観せられていく。
 奥に行くにつれて女の痴態を描いた絵は過激さを増していった。
 それに比例して観客も増えていく。その観客は若い男がほとんどだった。

 圭子は数十点あまりの下着姿の絵を観せられて階段まで来た。
 その階段の入口に屈強な男が立ち塞がっている。腕の太さが自慢らしく半袖シャツから細身の女の脚ほどもある日焼けした腕を出している。

「二階はなんなの」
「そのものずばりの絵が展示されている」
「法に触れないの」
「玄関に門番がいたろう。その男が、デカがきたら報せることになっている」
「デカがここにいるじゃない」
「ここにいるのは変態男だ」
「自覚しているのね」

 この勝気な女に一発、ぶちかましてやりたいところだが、高杉はぐっと耐えて、圭子を伴って階段口のマッチョの前まで来た。

「今日はお連れさんですか」
「いい女だろう」
「いい女ですね」

 マッチョは鸚鵡返しにいい、圭子の全身を視線で舐めるようにしてから身体を退けた。
 圭子は高杉と一緒に階段を上っていく。その圭子の後ろ姿をマッチョが見上げている。

「覗いているぞ」
「こういうスカートを穿かせたのはどこの誰かしら」
「後ろを隠すことはしないのか」
「穿くからにはそれなりの覚悟はしているわよ」
「いい心がけだ」

 二階はさらに暗くなっていた。
 場内には女の啜り泣く声が流され、壁には結合した男女の絵が掛けられている。画風は一階の淫らを強調した劇画的なものからデザイン画や水彩画のような淡い筆タッチに変わっている。それでも結合部はあからさまに描かれている。

「初めてか」
「……ええ」
「アダルトビデオぐらいはあるだろう」
「ええ……女子大のときに一度」

 クリスマスパーティーでマンションに住んでいる同じゼミの女友達の部屋で四五本借りてきて観たことがある。肩を寄せ合って固唾を飲んで観たけれど、みんなボカシが入っていて興醒めしたのを覚えている。あんなのかえって猥褻だわ! と本気で怒った友達もいた。    

「男は女の性器を見るが、女はその逆なのか?」

 それが当然だと圭子も思っていたが、そうではないことに気付いていた。自分の視線がいくのは陰茎よりも女の性器だった。

「女の方だわ」
「陰茎の方かとおもっていたが粘膜の方か。……棒なんかよりも花の方が奇麗だからな」
「……」
「植物の花は蜂を誘うために咲くが、粘膜の花は肉棒を誘うために咲くか……」
「いやらしい」
「それが事実だろう」 
 ふん、と圭子は顔を背けた。その圭子の腰を高杉が抱き寄せた。

 結合の絵を観ながらきた二人の先に、人だかりがしている。

「この絵をよく観てもらいたい」

 高杉は群がっている男たちを掻き分けて絵の前に圭子を押し出した。
 その絵は十号(F10)の大きさで、金箔の額縁に納められている結合した男女の姿だった。

 『武尊』という落款があり、これまで観てきた絵とは格段の差がある。女の表情といい、性器の結合部といい、男女が額の中で実際に行為をしているかのようだ。それほど絵は緻密を極めている。観る男を陰茎に、見る女を粘膜にしてしまうような怖さがこの絵にはある。

 男が横たえた女の顔を見つめながら、女性器の充血した粘膜を見せつけるように片脚を抱えあげている。その女性器に大きく撓った陰茎が挿入されていて乳液のような汁が肛門の窄みにまで流れて溜まっている。女は目を閉じているが、口は喜悦の声をあげているかのように開けている。

「エロス画は映像のスチール写真やヌードのグラビアを参考にして描いていく。しかし『武尊』のは、実際の行為を写真に撮って描くらしい。つまり、ある男とある女を結合させた写真を撮り、それをそのまま絵にしていく。この絵も行為の最中に撮った写真をもとにしている」
「そんな感じだわ」
「この女をよく見ろ」
 ……いわれなくても観ている。

「捜査本部はこの女をガイシャとほぼ断定している。ガイシャが絵の顔と似ていることもあるが、それ以上に性器の顔が見事に一致しているからだ」
「性器の顔?」
「陰毛及び、陰核、尿道口、膣口それを囲む大小の陰唇が造形する女性の第二の顔のことだ。第二の顔というのはマル性の符牒(ふちょう)で、つまり、その顔がガイシャとそっくりだということ」

 高杉は声を押し殺して、観客に聞こえないように解説してくる。

「最近のスーパーインポーズは上の顔だけではない。白骨化した骨盤の恥骨から陰部の形状までCG画像で作りだすことに成功している。ましてやガイシャは死後、一週間だ。挿入興奮時の粘膜の状態まで再現できている。さいわいにも『武尊』の絵は女陰をあからさまにすることが多い。この結合の絵もそうだ。陰茎を膣口近くまで抜いたときの陰部が丸見えだ。見事に一致というのはCG画像で再現した外性器とこの絵の外性器が一致していることだ」

 捜査の話とはいえ、圭子は陰部が炙られているかのように熱くなっていた。
 高杉は階段を上がっていく。

「……まだあるの」
「実演だ」
「いや!」
「冗談だ」
「おどかすんだから、もう」
 

 三階に行く。
 女の人がブロマイドを手早く集めては、つり銭と一緒にお客に渡している。そのブロマイドは館内に展示されている絵だが、一枚四百円もするのを一人で十枚近くも買っていくお客もいる。その中に必ず『武尊』のがあり、トップセラーである証拠にひときわ高くテーブルに積まれている。

 高杉はそのブロマイドを購入してきて窓際のソファーに座っている圭子に手渡した。そのブロマイドを圭子は見ていく。ブロマイドは四枚でそのすべてに『武尊』の落款がある。あの結合の絵だけではなく、開脚されて性器を曝した姿や下着姿のもある。女の顔はさまざまな表情で、髪型、髪色も変えている。同一人物とすることは難しい。

「すべてガイシャだ」
「どうしてわかるの?」
「第二の顔をよく見てみろ」

 高杉に言われた圭子はブロマイドを見直した。

 一枚目の絵は『下着から透けている女性器』。
 ショーツの上からでもクリトリスの尖りがわかる。

 二枚目の絵は『ショーツを脱いで晒している女性器』。
 クリトリスがこんなに大きい!

 三枚目の絵は『結合している女性器』。
 ペニスを挿入されているけれど特徴は同じ。つまり大きなクリトリスがわかる。

「ガイシャの性器の特徴わかるか」
「そんなこと女のわたしから……」
「いえないのか」
 高杉に睨まれて圭子はつい、
「クリトリ……」
 と言いかけて顔を赤くし、
「陰核がはっきりしているのかしら」
 と視線を伏せた。

「ハッキリしているんではなく大きいのだ。それと」
「陰唇がなんというか……」
「発達しているんだ。つまりガイシャは陰核が大きく陰唇が発達している性器美人の女ということだ。さらに付け加えると、陰核と膣口の間がきわめて近いのも特徴だ。ときには上の顔よりも下の顔のが捜査には役に立つだろう」
「そうね……」

 圭子はハンドバックを腿に押し付け、ブロマイドから顔を逸らした。
 窓まで茂っている蔦に視線をやり、疼きを鎮めようとしたが、ブロマイドの結合部が脳裏に焼きついて消えない。

「もう、でましょう」
「まだ、要件が済んでいないだろう」
「なにかしら……」
「そういう服装をさせた理由さ」

 高杉に圭子は手を取られて腰をあげた。
 二階に下り、ふたたび結合の絵が展示されている暗い館内を圭子は、高杉に連れられて観客の中を進む。

 観客はさらに多くなっていた。
 圭子の腰を抱き寄せている高杉の腕の先が時折、スカートの上から過敏な部分に触れてくる。

 圭子は観客に押されながら歩むための不可抗力と思いつつ高杉の手を許していた。けれどもそれがしだいに意識的なものに思えてきても、退けることもできないほどの疼きに襲われていた。圭子はせめて小声で、だめ… と批難した。けれども触れてくるたびに、圭子のだめ…は小さくなっていく。

 そのころには圭子は高杉になかばもたれるようになっていて、このまま女警たちのようにホテルに連れ込まれていくのかと……。
 そう観念してしまうと、潤いが始まってショーツに滲んでいく。

 そうして圭子は一階へと下りて行く階段まで高杉につれてこられた。
 さっきのマッチョが遠慮なしに顔を低くして見上げてくる。
 高杉が圭子の腰に回した腕の締めつけを強くした。
 タイトミニの裾がずりあがり、

「たかすぎ…」

 と圭子は嘆いたが高杉はわざと見せつけるように階段を下りていく。

「ぃゃ……」

 濡れそぼった細い布が淫らに喰いこんでいる。
 それが見られている。
 しかし腰を押さえられた圭子は逃げることもできなく、せめて顔だけを背けた。

 高杉は階段を下りたところで、
「どうだ、よく見えたか」とマッチョに聞く。

 マッチョは指でピースして、
「旦那、バッチリですよ」と。

 その二人の声が圭子に聴こえ、あまりの羞恥に脚が萎えて高杉に抱き支えられた。
 ……はやくホテルへ。
 圭子は柔らかくなってしまった身体を高杉に預けた。

 その高杉に連れていかれたのはホテルではなく、一階ロビーのあの芸術家気取りの男たちの前だった。
 ソファーに座ったまま見つめてくるその彼らの前に。

「モデルとしてどうだい」

 高杉の顔は冗談をいっている表情ではなかった。

 その高杉に圭子は身体を揺さぶられて、乳房をキャミソールごと震わせられる。それだけではなく、ミニスカートを下半身が露わになるまで捲りあげられたのだ。

「いゃ!」

 高杉に身体を押さえられて、しゃがむこともできない圭子は下半身を晒したまま顔を背けた。

「こんなすごいのを穿きこなす女はめったにいないぞ」

 画家たちの目は、蜘蛛が糸を吐くように圭子の下半身にまとわりつく。

「よく見たか。こんどは尻を見せてやる」
 
 高杉は腰を巻き込むように抱き直し、圭子を後ろ向きにさせた。

 楔形に切れ上がった穿き布で分かれた圭子の桃尻が足の動きに震えながら向いていく。その美尻を高杉撫でられながら脚を開かれて、奥まで晒される。

「やめてぇ…たかすぎ」

「見えるか……濡れているのが。このオンナは感度が抜群なんだ。絵を観ただけでこれだ」

 高杉の胸に顔を押し付けている圭子の口から微かな声が漏れだしたとき、これまで固唾を飲んで見つめていた画家の一人が囁きだした。

 ……顔、オッパイ、脚の三拍子か。
 ……尻もいい。
 ……武尊のモデルを狙っているんだろう。
 ……それだけそろっていてもなれない女はざらだ。

 そういう画家たちを高杉は見据えると、

「俺の耳は地獄耳でな、この女は三拍子どころじゃないぜ、オマンコも絶品だ。ここじゃなかったら見せてやりたいほどだ」
 
と嘯いて圭子を館の外へ連れ出した。










   
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