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美肉捜査1(2)
第一章 第二の顔
 

 圭子が待ち合わせ場所の上野公園に着いたとき、高杉晋は先に来て待っていた。県警きっての女たらしで女警喰いの高杉ともいわれている。本部でもこの男にはもてあまし気味だが頭は切れるらしく、性犯罪捜査の指揮はこの男の頭脳と下半身がさも必要とばかりに、この事件の事実上の指揮を任せられている本庁捜査一課の若手の警部である。その高杉は西郷の銅像を見上げている。

「維新の志士たちは清廉潔白だと思うだろう。じつはそうではない、高杉晋作は結核で血を吐いて死ぬまで女楼に通っていたよ、坂本竜馬は暗殺されるまでにずいぶん女を胎ませたらしい。西郷はその点、謎になっているが……」
「晋という名は、それにあやかったのね」

 圭子は皮肉ってあげた。高杉はふんと笑い、

「デカだってただの抑圧された男にすぎない。刑事の名を背負っているときとそうじゃないときは別の人間だ」

 高杉は銅像から博物館通りへと足を向けた。デカの癖なのか高杉の足の運びが速く、圭子は遅れ気味になる。離されては小走りして追いつき、そしてまた離される。そうして二人は広々とした通りに出た。

 噴水の飛沫が夏空に輝いている。その向こうに重厚な博物館の建物が見える。圭子は小走りして高杉の横に並んだ。

「最初に正しておきたいことがあるの」
「なんだ」
「捜査に関係があるというから、こんな服装をしてきたのよ。どういう関係があるの」

 高杉は圭子の全身を見てから、

「よく似合うじゃないか……デート気分だな」
と夏空を仰いだ。

「冗談じゃないわ!デートだなんて」
「デート気分といったまでのことだ。そうむきになるな」
「捜査なのね」
「ああ」

 念を押させた圭子は高杉の注文どおりに、キャミソールにタイトのミニスカートを穿いてきていた。高杉もジーンズにポロシャツの軽装だった。捜査に名を借りたデートだとしたら圭子はヒールサンダルの踵を返すつもりでいたが、捜査といわれたかぎりついていくしかない。

 それにしても、「短すぎないかしら」と圭子はスカートの裾に手をやった。こんなミニは女子大のときに穿いたぐらいで危険水域ぎりぎりまで短い。

「デカの頭髪と女のスカートは短ければ短いほどに良い」
「へんなたとえ」

 高杉のダジャレに圭子は笑って返す。

 桜の季節とちがって酔っ払いもいなく、そのぶんカップルが多い。陽射しがこちらに歩いてくるカップルの女の身体の線を透かしている。インナーウェアーを外出着にアレンジしているからで、内腿まで映してしまっている。

「あんなのを着るから犯罪が増える」
「流行なんでしょう」
「松見も着るのか」
「透けているのはわざとらしさがあるから嫌いだわ」
「もっぱらミニか」
「どちらかというとそうね。でも、今日のは例外だからね。いくらなんでも社会人で、こんな短いスカートなんか……」

 そういう圭子の腰に高杉はちらりと視線をやる。

「リプトンの紅茶と同じ名前の物も穿いてきたか」
「……? 穿いてきたわよ!」
「よく穿くほうか」
「なぜ、そこまで聞くの」
「興味があるからさ」
「答える義務はないわ」
「もう、答えているさ」

 むっとして黙り込んだ圭子の先になった高杉が博物館通りから外れて林に通じている踏み跡を辿っていった。圭子はその高杉を呼び止めた。

「事件の捜査をしたいのだろう」

 振り向きもしないで高杉はそういい、さらに林の奥へと入っていく。

「ほんとかしら、あやしいものだわ」

 と圭子もしかたなく後を追う。

 林には笹が密生している。サンダル穿きの素足に葉が擦れて、圭子の足の運びも遅れぎみになる。だいぶ先で高杉を待たせている。

「こんな路、いやよ! 蛇がでそうで」
「でるぞ! マムシが!」
「やめてぇぇ!」

 圭子は小走りして高杉に追いつくと、腕のシャツを握りしめた。

「袖がのびちまうよ!」
「おどかすからよ!」
と圭子は袖から手を放した。

「ほら、あそこに掲示があるだろう」

 樹の幹に針金で貼り付けられた看板がある。マムシに注意とある。圭子は声をあげて高杉の腕に腕を絡めた。その絡めた腕を放したり、笹が多くなるとまた絡めたりで、そうして踏み跡はしだいに幅を広げて一本の小道になった。古い明治時代の洋館のような建物が見えている。

「ガイシャの発見時のこと知っているか」
「絞殺されて、車のトランクでしょう」
「全裸で硝子のペニスが挿入されていたのは」
「そんな!」

 圭子は立ち止まった。その彼女を置いて高杉は先をいく。圭子は早歩きして横に並んだ。

「ショックで足も動かないのに優しくない男ね。ふつうの男は手をかしてくれるわ」

 高杉は圭子の腰に腕を回した。

「これでいいのか」
「……いまさら遅いのよ」
「さっきの路じゃ、並んで歩けないだろう」
「そっちが譲ればいいでしょう」
「藪にはいってか」
「そうよ……」

 圭子はぶつぶつ文句を垂れながら、高杉と歩き出した。

「殺しのガイシャが若い女のときは、その約三割が乳房と性器にいたずらされた痕跡が認められる。乳房には歯形が、膣には強入された傷がある。それに怨恨が加わるととても口に出せないほど凄惨だ。うちの一課では乳房や性器に損傷がある殺しをマル性と称して特別な捜査態勢を布く。また外部には直接の死因しか報せないことにしている。遺族の心情を思っての報道規制だ」
「そのマル性の事件が起きたら指揮をするのが高杉晋というわけね」
「お偉方が勝手に決めたことだ」
「でも、お似合いだわ」

 二人は洋館の前まで来ていた。まるで中世西欧のお化け屋敷みたいに蒼然としていて、蔦が屋根まで生い茂っている。

「これでも美術館なんだ」

 玄関に門番がいて、高杉がチケットを渡すと、圭子のハンドバックを指した。
 圭子は憮然としてハンドバックを開けた。
 男は圭子のバックを覗いてから、リーフレットと番号札を渡してきた。
 リーフレットには現代エロスの絵画展となっている。

「こういうの興味ないんだけど」
「ガイシャはこの館で目撃されている。街でスカウトされてその男についてきたらしい」

 圭子は高杉に耳打ちされた。
 門番が玄関から退いた。
 圭子は高杉に促がされて入った。 






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