秘書 響子(23)
佐伯俊彦は部長の席からこちらを見ていた。
その佐伯が席を外してこちらへとくる。小野田のように浅黒くてガッチリしたタイブではなく背がスラリと高いどちらかというと銀行マンのようなタイプだった。
「小野田です。今日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます」
小野田は佐伯が傍に来るのを待って自己紹介をすると、名刺を取り出して渡し、響子を紹介する。
「こちらは秘書です」
「秘書の片山響子です」
響子も名刺を取り出して佐伯に渡す。
「佐伯です。どうぞこちらへ」
佐伯は渡された名刺を見ながら二人を応接間のソファーへと招く。そして二人が座った正面に腰を下すと名刺をテーブルの手元に置いた。
小野田は一呼吸置いてから、本社を訪問した経緯を話していく。
新人の研修先で偶然『蛍の里、住宅建設』工事の看板を目にしたこと。さらには倫子が貴社の社長とゴルフ場で顔を合せたこと。それらが偶然の出来事であり、運命的でもあり、そのご縁を機会に貴社の事業に協力できればと伺ったこと。小野田は柔らかい表現と落ち着いた口調で話し、そして結んだ。
響子は小野田の話の進め方に無理がなく自然なのに感心していた。ただの女好きの男だけでは会社の社長にはなれないと改めて思う。
小野田の話を聴いた佐伯の顔が明るく綻んでいる。
「うちの社長から聞きましたよ。綺麗な秘書さんから小野田ハウスの社長さんと会って欲しいと頼まれたとか…」
「これは失礼しました。社長が未熟なのでせめて秘書だけは何処に出しても恥ずかしくない女性をと思いましてね…」
そう述懐して小野田は照れ笑いをする。それで佐伯の微笑んでいる顔が響子に向けられる。響子は微笑して佐伯の視線を受け入れる。微笑しながら見つめてくる、その彼の視線の焦点が、時折、胸や脚にも合わせてくるのを響子は感じていた。
ドアがノックされて若い女性が入ってきてテーブルにお茶を置いていく。その彼女が部屋から退くのを待って小野田は会社の沿革と住宅建設の実績を佐伯に話していった。
響子は会社概要を佐伯の前に差し出して、小野田の話に合わせてペーシを捲っていく。そうして五分ほどで小野田の説明が終わった。
小野田が会社概要のパンフを閉じると佐伯が顔を上げた。
「小野田ハウスさんにとって住宅建設で最も大切にしているものは何です?」
「建設規模に合った職人さんの確保です。それがきちんとしていれば工期が守れますし、手抜きもなくなります」
「…なるほど」
小野田の説明に佐伯は納得したように大きく頷いてソファーに身体を預ける。その佐伯の視線が時折、響子に注がれてくる。響子は微笑を絶やさないようにして佐伯の視線を受けいれる。
小野田ハウスの社長秘書の服務規程にはタイトスカートの丈の長さまで記されている。さらには応接間で顧客と対面するときには、ハンドバッグを腿に置かないように先輩の倫子から躾けられる。それらの理由が、佐伯の視線の矛先に表れている。
響子はブラウスの胸や露出した脚の奥への射すような佐伯の視線に、身体が火照るのを覚えて、それを造り微笑で隠す。
「美人の秘書を二人も揃えて羨ましいですね。一人ぐらい、わたしの方によこしてくださいよ」
ようやく口から発せられた佐伯の冗談に小野田が待っていましたとばかり、
「どうですか!こちらの秘書は…」
と、響子を目で示して佐伯の反応を窺う。
「いいですね!」
と、佐伯が笑う。
響子も、しかたがなく
「今からでも、いいですよ」
と、二人の冗談に合わせる。
佐伯は機嫌よく頷いてから、
「よくわかりました。機会があったらぜひ、ご一緒に仕事をしましょう」
と、小野田と響子を交互に見つめて微笑んでくる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
小野田と響子はソファーから腰を上げると佐伯にお辞儀をし、退室した。
響子は初めての秘書らしい仕事に快い疲労感を覚えていた。二人は部長室を退室した後、テナントビルの喫茶店で珈琲を飲んでから帰社の途についた。
その佐伯が席を外してこちらへとくる。小野田のように浅黒くてガッチリしたタイブではなく背がスラリと高いどちらかというと銀行マンのようなタイプだった。
「小野田です。今日はお忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます」
小野田は佐伯が傍に来るのを待って自己紹介をすると、名刺を取り出して渡し、響子を紹介する。
「こちらは秘書です」
「秘書の片山響子です」
響子も名刺を取り出して佐伯に渡す。
「佐伯です。どうぞこちらへ」
佐伯は渡された名刺を見ながら二人を応接間のソファーへと招く。そして二人が座った正面に腰を下すと名刺をテーブルの手元に置いた。
小野田は一呼吸置いてから、本社を訪問した経緯を話していく。
新人の研修先で偶然『蛍の里、住宅建設』工事の看板を目にしたこと。さらには倫子が貴社の社長とゴルフ場で顔を合せたこと。それらが偶然の出来事であり、運命的でもあり、そのご縁を機会に貴社の事業に協力できればと伺ったこと。小野田は柔らかい表現と落ち着いた口調で話し、そして結んだ。
響子は小野田の話の進め方に無理がなく自然なのに感心していた。ただの女好きの男だけでは会社の社長にはなれないと改めて思う。
小野田の話を聴いた佐伯の顔が明るく綻んでいる。
「うちの社長から聞きましたよ。綺麗な秘書さんから小野田ハウスの社長さんと会って欲しいと頼まれたとか…」
「これは失礼しました。社長が未熟なのでせめて秘書だけは何処に出しても恥ずかしくない女性をと思いましてね…」
そう述懐して小野田は照れ笑いをする。それで佐伯の微笑んでいる顔が響子に向けられる。響子は微笑して佐伯の視線を受け入れる。微笑しながら見つめてくる、その彼の視線の焦点が、時折、胸や脚にも合わせてくるのを響子は感じていた。
ドアがノックされて若い女性が入ってきてテーブルにお茶を置いていく。その彼女が部屋から退くのを待って小野田は会社の沿革と住宅建設の実績を佐伯に話していった。
響子は会社概要を佐伯の前に差し出して、小野田の話に合わせてペーシを捲っていく。そうして五分ほどで小野田の説明が終わった。
小野田が会社概要のパンフを閉じると佐伯が顔を上げた。
「小野田ハウスさんにとって住宅建設で最も大切にしているものは何です?」
「建設規模に合った職人さんの確保です。それがきちんとしていれば工期が守れますし、手抜きもなくなります」
「…なるほど」
小野田の説明に佐伯は納得したように大きく頷いてソファーに身体を預ける。その佐伯の視線が時折、響子に注がれてくる。響子は微笑を絶やさないようにして佐伯の視線を受けいれる。
小野田ハウスの社長秘書の服務規程にはタイトスカートの丈の長さまで記されている。さらには応接間で顧客と対面するときには、ハンドバッグを腿に置かないように先輩の倫子から躾けられる。それらの理由が、佐伯の視線の矛先に表れている。
響子はブラウスの胸や露出した脚の奥への射すような佐伯の視線に、身体が火照るのを覚えて、それを造り微笑で隠す。
「美人の秘書を二人も揃えて羨ましいですね。一人ぐらい、わたしの方によこしてくださいよ」
ようやく口から発せられた佐伯の冗談に小野田が待っていましたとばかり、
「どうですか!こちらの秘書は…」
と、響子を目で示して佐伯の反応を窺う。
「いいですね!」
と、佐伯が笑う。
響子も、しかたがなく
「今からでも、いいですよ」
と、二人の冗談に合わせる。
佐伯は機嫌よく頷いてから、
「よくわかりました。機会があったらぜひ、ご一緒に仕事をしましょう」
と、小野田と響子を交互に見つめて微笑んでくる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
小野田と響子はソファーから腰を上げると佐伯にお辞儀をし、退室した。
響子は初めての秘書らしい仕事に快い疲労感を覚えていた。二人は部長室を退室した後、テナントビルの喫茶店で珈琲を飲んでから帰社の途についた。
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