秘書 珠代(42)
珠代にも女の意地がある。室長や若い萌美にまで軽い女には見られたくはない。
蛍祭りの前日、珠代は定時に退社して百貨店に寄った。そしてランジェリー売場で当日に身に着けるショーツとパンストを地味な品物に買い替えた。
これまでのオープンクロッチの嫌らしいパンストから普通のパンストへ。そしてショーツはこれまでのナイロンのTバックから腰骨まで隠れる綿のショーツヘと替えた。この地味な下着で佐伯に抵抗してその気を無くさせてあげたかった。
当日、珠代は社長と午後に退社して電車に乗り、待ち合わせ場所の駅で降りた。そして改札口を出るとすでに佐伯が夏の西日が射す駅のロータリーにレクサスを止めて待っていた。
小野田が早歩きして佐伯の方に行く。そして指名のお礼をし、頭を深く下げた。小野田から数歩遅れた珠代も佐伯にお礼を言い、深く頭を下げた。
「そんなかしこまって照れるじゃないですか。今夜は飲んで蛍祭りを楽しみましょう」
佐伯はすでにアルコールが入っているのか顔がほんのりと赤い。
その佐伯の視線は珠代を熱いまなざしで見つめてくる。珠代は視線を下げて逃げる。
佐伯と挨拶を交わした後、珠代は小野田と一緒に後部座席に乗ろうとしたが小野田が早々と釘を刺してくる。
「佐伯部長さん、どうですか。いまからでも美人秘書をお貸ししますけど」
小野田は顔に意味ありな笑みを浮かべる。
「それは願っても無いです!」
佐伯は声をあげて歓迎し、助手席のドアを開ける。
珠代は断る勇気もなく造り微笑を顔に浮かべて、
「わたくしでよければ」
と、小野田から離れて佐伯の方へ。
佐伯は珠代の手を取って助手席に座らせるとドアを閉め、運転手席に乗る。そして珠代の美脚と突き出した胸に視線をちらりとやってからエンジンをかけて車を走らせる。
佐伯は珠代が助手席に乗っていても話しかけてくることはなく顔を真っすぐに前に向けて運転している。
男は抱きたい女が傍にいると口説き落とすまでの段取りで頭の中が一杯になる。それで会話を楽しむ余裕すらなくなるが、欲望は隠し切れないで信号で車を止めた時に珠代の脚と胸を視線でなにげなく撫でてくる。
珠代も佐伯の視線を感じて苦しくなって、
「…蛍のお祭りなんて初めてだわ」
と、車の進行方向を見ながら呟く。
佐伯が応えてきたのはそれからしばらくたってからで、
「今年は川の水が安定しているので蛍が多いそうです。昨夜は部屋の中まで蛍が迷い込んできたと旅館の女将が言っていましたよ」と。
「…そうですか」
珠代は小さく呟いてから伸ばしていた脚を組んでみたが、室長の躾けが頭にこびりついているのか組んだ脚をふたたび元に戻す。
佐伯の運転するレクサスは丘陵地の緩やかな坂道を走っていく。これまで道に沿って流れていた川に大小の岩が現れるようになり、川底にも小砂利が透けて見えるようになってくる。
「車を運転するのが好きなんです。秘書さんは」
佐伯がすれ違う車にブレーキを踏んで道を譲ってから話しかけてくる。
「免許持っていませんから。乗せて頂くだけです」
珠代の亡き夫も免許は所有していなかったからドライブの楽しい想い出もない。
「今度、ドライブに行きませんか」
「そうね…。いつか誘ってください」
珠代は佐伯の誘いに意味もなく応えた。
「父の別荘が伊豆にあるので、ぜひ、ご一緒にドライブしてください。入札を有利に進めるためには父にあなたを紹介する必要もありますので」
佐伯が重要な案件を話してきたので珠代は返事に詰まった。
珠代が返事を躊躇していると、これまで後部座席で目を閉じていた小野田が横槍を入れてきた。
「もちろん、お伴させていただきます。なあ珠代くん」と。
珠代は断る勇気もなく、
「ぜひ、ご一緒させてください」
と、返事をした。
蛍祭りの前日、珠代は定時に退社して百貨店に寄った。そしてランジェリー売場で当日に身に着けるショーツとパンストを地味な品物に買い替えた。
これまでのオープンクロッチの嫌らしいパンストから普通のパンストへ。そしてショーツはこれまでのナイロンのTバックから腰骨まで隠れる綿のショーツヘと替えた。この地味な下着で佐伯に抵抗してその気を無くさせてあげたかった。
当日、珠代は社長と午後に退社して電車に乗り、待ち合わせ場所の駅で降りた。そして改札口を出るとすでに佐伯が夏の西日が射す駅のロータリーにレクサスを止めて待っていた。
小野田が早歩きして佐伯の方に行く。そして指名のお礼をし、頭を深く下げた。小野田から数歩遅れた珠代も佐伯にお礼を言い、深く頭を下げた。
「そんなかしこまって照れるじゃないですか。今夜は飲んで蛍祭りを楽しみましょう」
佐伯はすでにアルコールが入っているのか顔がほんのりと赤い。
その佐伯の視線は珠代を熱いまなざしで見つめてくる。珠代は視線を下げて逃げる。
佐伯と挨拶を交わした後、珠代は小野田と一緒に後部座席に乗ろうとしたが小野田が早々と釘を刺してくる。
「佐伯部長さん、どうですか。いまからでも美人秘書をお貸ししますけど」
小野田は顔に意味ありな笑みを浮かべる。
「それは願っても無いです!」
佐伯は声をあげて歓迎し、助手席のドアを開ける。
珠代は断る勇気もなく造り微笑を顔に浮かべて、
「わたくしでよければ」
と、小野田から離れて佐伯の方へ。
佐伯は珠代の手を取って助手席に座らせるとドアを閉め、運転手席に乗る。そして珠代の美脚と突き出した胸に視線をちらりとやってからエンジンをかけて車を走らせる。
佐伯は珠代が助手席に乗っていても話しかけてくることはなく顔を真っすぐに前に向けて運転している。
男は抱きたい女が傍にいると口説き落とすまでの段取りで頭の中が一杯になる。それで会話を楽しむ余裕すらなくなるが、欲望は隠し切れないで信号で車を止めた時に珠代の脚と胸を視線でなにげなく撫でてくる。
珠代も佐伯の視線を感じて苦しくなって、
「…蛍のお祭りなんて初めてだわ」
と、車の進行方向を見ながら呟く。
佐伯が応えてきたのはそれからしばらくたってからで、
「今年は川の水が安定しているので蛍が多いそうです。昨夜は部屋の中まで蛍が迷い込んできたと旅館の女将が言っていましたよ」と。
「…そうですか」
珠代は小さく呟いてから伸ばしていた脚を組んでみたが、室長の躾けが頭にこびりついているのか組んだ脚をふたたび元に戻す。
佐伯の運転するレクサスは丘陵地の緩やかな坂道を走っていく。これまで道に沿って流れていた川に大小の岩が現れるようになり、川底にも小砂利が透けて見えるようになってくる。
「車を運転するのが好きなんです。秘書さんは」
佐伯がすれ違う車にブレーキを踏んで道を譲ってから話しかけてくる。
「免許持っていませんから。乗せて頂くだけです」
珠代の亡き夫も免許は所有していなかったからドライブの楽しい想い出もない。
「今度、ドライブに行きませんか」
「そうね…。いつか誘ってください」
珠代は佐伯の誘いに意味もなく応えた。
「父の別荘が伊豆にあるので、ぜひ、ご一緒にドライブしてください。入札を有利に進めるためには父にあなたを紹介する必要もありますので」
佐伯が重要な案件を話してきたので珠代は返事に詰まった。
珠代が返事を躊躇していると、これまで後部座席で目を閉じていた小野田が横槍を入れてきた。
「もちろん、お伴させていただきます。なあ珠代くん」と。
珠代は断る勇気もなく、
「ぜひ、ご一緒させてください」
と、返事をした。
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